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【50代の転職 賢人インタビュー】キャリアコンサルタントが語る③ 年収アップする「コアスキルの棚卸し」のポイント
最近、転職関連の記事で「コアスキルの棚卸し」という言葉をよく目にするようになりました。
国家資格キャリアコンサルタント・安藤真規子さんへのインタビュー企画第2弾でも、50代の転職において「コアスキルの棚卸し」がいかに重要かを語っていただきました。
今回は、「コアスキルの棚卸し」を行う際のポイントについて、より詳しく教えていただきました。
<プロフィール>
安藤真規子(あんどうまきこ)さん/株式会社Human&Mind代表キャリアコンサルタント
立教大学法学部卒後、(株)リクルートにて営業・広報・プロモーション・イベント企画の仕事に従事。2010年に独立、転職エージェント「Human&Mind」を設立。国家資格キャリアコンサルタントとして5,000人超の転職をサポートするほか、研修トレーナーや広報・プロモーション支援活動、ライター業まで幅広く活躍。
「管理職=コアスキル」ではないことを肝に銘じて
――50代の転職で「コアスキルの棚卸し」を行う際、気を付けるポイントはありますか?
たまに、コアスキルを問うと、「課長(部長)をしています」と役職で答える方がいらっしゃいます。しかし、管理職であるということはただのポジションであって、スキルではないんですね。
実務者(プレイヤー)の場合は目標があって、それ達成をする課程でコアスキルが身に付きますが、管理職(マネージャー)の場合は何がスキルか難しいといった側面もあります。
――では、管理職のコアスキルとはどのようなことでしょうか?
「課長(部長)として、任された組織にどのように貢献したか」がスキルを棚卸しする際のヒントになります。課長(部長)の役割は何かを理解し、そのうえで自分はどんな役割を果たしたのかを自己分析してみてください。
課長(部長)の役割を考える際、上司と部下をつなぐ中間管理職ではなく、その組織のトップ(経営者)であるという意識を持って、どうあるべきかを問うようにするといいですね。
例えば、
・組織の目標を設定し、メンバー全員で方向性を共有して意識を高めていけるよう戦略・戦術を指し示す
・目標達成のために必要なタスクを抽出し、各メンバーの能力や役割に応じた仕事を任せる
・目標を達成したらメンバー一人ひとりを正当に評価・フィードバックをして、次の意欲につなげる
というプロセスの中で、人を成長させながら、組織として成果を上げていくのがトップの役割です。そして、以上のような役割を果たしたことが管理職のスキルにつながります。
スキルの列挙より、エピソードをストーリー仕立てで
――「コアスキルの棚卸し」は、具体的に、どのように進めたらよいでしょうか?
チェックシートに印を付けたり、スキルをたくさん列挙するといったやり方もあると思いますが、私がキャリアコンサルタントとして面談(※)する際は、「ご自身のスキルについてエピソードを語ってください」とお話しします。
プレイヤーであれば、このミッションを達成しましたと業績を伝えればその人の能力や強みが伝わりますが、管理職の場合はそのプロセス=エピソードこそが大切になるからです。
例えば、どのような顧客でどのような課題があり、このような競合他社があったが、こう提案をしたら受け入れられ、このような結果が残せた……というようなエピソードをきちんとストーリーにして伝えること。職務履歴書に記入したり、面接で語ったりすることで、企業側にその能力や熱意が伝わりやすくなります。
なお、あくまでも「コア=メイン」となるスキルなので、職務履歴書に記入する際は2つまたは多くても3つに絞り込んで項目として書き、それぞれの裏付けをストーリー仕立てで書き加えるとよいでしょう。
※国家資格キャリアコンサルタントとの有料面談は、1時間5,000~10,000円が相場です。
「コアスキルの棚卸し」により、大手企業に好待遇で転職が決まった例も
――安藤さんが担当された50代の方で、印象に残ったエピソードはありますか?
はい、50歳になったばかりの大手企業の営業部の部長さんでした。面談に来られた理由は「大手の仕事をある程度やり尽くし、新しい挑戦もしたい、自分が今までやってきたことをほかの企業で役立てたい気持ちもある。転職は必須ではないが、50代の人生と仕事をリスタートできるかちょっと相談にきました」というような感じでした。
コアスキルを尋ねた際、最初は「新規事業を立ち上げた経験もなく、会社の商品を組織として売ってきただけなので、自分にはたいした価値(スキル)はない」とおっしゃっていました。
ですが、話を聞いていくうち「会社の業績が不振の際、社長命令で営業組織の立て直しと業績アップのミッションを与えられた。その際、今まで通りorやや高い程度の目標設定ではやり方が変わらず、業績アップに結び付かないと考え、思い切ってこれまでの延長線では達成不可能なかなり高い目標を設定した」というエピソードが語られ始めました。
ご本人は、「仕事として当たり前のことをしたまで」と涼しい顔をしておられましたが、キャリアコンサルタントの立場から見ると「このプロセスのなかにコアスキルが存在している」と直感し、私の方からどんどん話を掘り下げて聞いていきました。
この部長さんは、高い目標を達成するため徹底的にマーケットを調査し、競合他社の情報も収集しました。部下からは無理だ、無謀だという反対意見もあったそうですが、メンバー一人ひとりの強みや役割を丁寧に伝えると共に、その先に待っている世界観を共有。全員一丸となってその目標に向かっていこうと意識を醸成できたそうです。
さらに、目標達成のためには働く環境整備も必要だと考え、営業マニュアルの充実やバックオフィス事務の増員を決定。その他、直行直帰を可能にしたり、リモート時の情報共有ツールをSEと一緒に構築するなど、営業マンのピュアセールスタイム最大化を実現しました。その結果、目標をハイ達成することができ、社長賞をもらったそうです。
このエピソードは、組織を会社に見立てると、企業の収益UPに貢献できる「経営スキル」を物語っています。ご本人に職務履歴書へまとめていただき、私は企業側にこのようなコアスキルを持つ方がいるということを詳しく伝えました。すると某企業から、一度会ってみたいというオファーをいただき、社長直々に面接していただいた結果、企業側から「このような素晴らしい人材は是が非でも欲しい」とその場で即内定・条件提示をいただきました。組織経営の手腕が高く評価され、ポジションは経営企画室長、給与は1,000万超えというご本人も満足する条件で転職が決まりました。
50代の転職は「キャリアの集大成」。「私はなに屋」か明確にして臨みたい
――自分では気付かないスキルもあるのですね。ほかにエピソードはありますか?
女性の方で、その方は飲食店の店長経験がありました。この方も、自分には販売経験のみで特にスキルがないとおっしゃっていました。スキルというのを技術的なものだったり、手に職的なものだったりと思い込んでいる人も多いのです。
しかし、店長経験があるということは、接客のみならず、売上や在庫などの管理、スタッフのシフト策定や育成まで幅広い能力があるということ。この方にはマネジメントスキルがあると判断して企業への推薦を進めたところ、大手企業の事務職にリーダー的な立場で採用が決まりました。ご本人も「販売職」から未経験で「事務職」への職種チェンジとキャリアアップが実現でき、とても喜ばれていました。
――コアスキルの重要性は理解できましたが、やはり「棚卸しの作業」は難しそうです……
コアスキルというとちょっと身構えてしまうというか、難しく感じてしまう方も確かに多いです。そんな方には、コアスキル=「自分はなに屋さん」かを明確にするという考え方もあることをアドバイスしたいですね。
若い世代の場合「自分はなに屋」と決めてしまうと、逆に可能性を狭めてしまうのでおすすめしていません。ですが50代ともなると、今回の転職はキャリアの集大成と考え、企業に対して「私は〇〇屋として即戦力になります」と明確にアピールできるとよいですね。
この「〇〇屋さん」ですが、ただ〇〇を売る人といった単純なことではなく、その商品やサービスを提供することによってどのような喜びや満足感などの付加価値を与えられるかということを考えてほしいんです。
自分のお客様は誰で、そこに提供できる価値はどのようなことで、競合とはどのような違いがあるか。以上を踏まえたうえで自分の強みはなにかを考えると、「私はなに屋」かの答えが見えてきます。
私の場合で例えてみると……
私のお客様は転職を希望する相談者。その方たちにただ求人紹介するだけでなく、社名のHuman&Mindにあるように「人」と「心」を大切にしてお客様に寄り沿い、転職はもとより、よい人生までサポートしたいと考えている。なので、自分は「ちょっとおせっかいな人生の伴走屋さん」とか「ちょっとおせっかいな人生の相談役」とかかな?と考えてみました。
もとより転職エージェントは、お客様の転職支援を目的とするビジネスですが、私自身は「転職するべきではない方」には、きちんとそれをお伝えし、現職に留まる選択肢や社内でのポジションチェンジ、転職時期の見直しなどを提案しています。この「〇〇屋さん」はキャッチフレーズのようですが、この言葉により、ほかの転職エージェントとの差別化、つまり「短期的な転職支援だけではなく、長期的な人生相談にも乗ってもらえるエージェントなんだ」ということがお客様に伝わりますよね。このような具合です。
自分で言葉にするのはちょっと気恥ずかしい……そんな方は、第三者の声を参考にしてみるのもおすすめです。周囲にはいつもどのような人だと言われるか、どのような強みがあると言われるか。自分が行ったことで人が喜んでくれたことはどんなことだったか。そんなことをひとつずつ思い起こしながら、自分はなに屋かを考えてみると割とスムーズだったりしますよ。
コロナ時代だからこそ「コアスキルの棚卸し」が重要視される
コアスキルというと難しく捉えがちですが、安藤さんのお話を参考にエピソードをストーリー仕立てにしたり、自分は〇〇屋という考え方をしたりすることで、少し気楽に「スキルの棚卸し」に挑戦できそうな気がしてきました。
「コアスキルの棚卸し」という言葉自体は以前からありますが、このところよく目にするようになったのには、コロナ禍の影響があるでしょう。安藤さんによると、少し前は「大手の課長さんならそれでOK」という企業もあったそうですが、コロナ以降、多くの企業が採用を控え、その少ない採用枠に最大の効果を得られる人材は……と見る目が厳しくなっています。
そこで重要になるのが「コアスキルの棚卸し」です。コアスキルという側面においては、20~30代の若者よりも50代のスキルの高い人材が有利なこともあるため、面倒くさがらずぜひ取り組んでみてください。
<安藤さんの過去アドバイスはこちら!>
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